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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)5445号 判決

原告

櫻井健人

被告

西村環境開発株式会社

ほか三名

主文

一  被告西村環境開発株式会社、同小野征男は、連帯して原告に対し、四五二八万三二四七円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告西村環境開発株式会社、同小野征男に対するその余の請求及び被告藤商運輸株式会社、同中西栄太郎に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、被告西村環境開発株式会社、同小野征男に関し生じたものはこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を同被告らの負担とし、原告に関し生じたものはこれを四分し、その一を被告西村環境開発株式会社、同小野征男の負担とし、その余を原告の負担とし、被告藤商運輸株式会社、同中西栄太郎に関し生じたものは原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自原告に対し、九二三七万九七八〇円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

路外から普通貨物自動車が当該道路に右折進入して来たため、普通乗用自動車が衝突を回避しようとしたところ、進路左方に駐車していた大型貨物自動車と衝突し、普通乗用自動車の運転者が重傷を負つた事故に関し、同運転者が普通貨物自動車、大型貨物自動車の各運転者及び各保有者に対し、損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は、争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成元年二月二八日午前二時五五分ころ

(二) 場所 大阪府枚方市出口一丁目一番一二号先国道一号線路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 被害車 原告運転の普通乗用自動車(大阪五四ま九〇二二号、以下「原告車」という。)

(四) 事故車 被告西村環境開発株式会社(以下「被告西村」という。)が保有し、かつ、同小野征男(以下「被告小野」という。)運転していた普通貨物自動車(大阪八八さ九七一七号、以下「小野車」という。)及び被告藤商運輸株式会社(以下「被告藤商」という。)が保有し、被告中西栄太郎(以下「被告中西」という。)が運転手をしていた大型貨物自動車(福井一一け二三六号、以下「中西車」という。)

(五) 事故態様 路外から本件事故現場に被告小野車が右折進入して来たため、原告車が衝突を回避しようとしたところ、進路左方に駐車していた被告中西車と衝突したもの

2  責任原因

(一) 被告小野は、路外施設から道路を右折して北行車線に進入するに際しては、北行車線を直進する他の車両の進路の妨害となる進行を避け、安全確認の上、進行し、事故を未然に防止する注意義務があるにもかかわらず、同注意義務に違反した過失があり、被告西村は、産業廃棄物、一般廃棄物の収集、運搬等を目的とする会社であり、小野車を所有し、自己の業務のため運行に供していたものであるから、それぞれ本件事故により発生した原告の損害を賠償する責任がある。

(二) 被告中西は、駐車禁止の本件事故現場に違法に駐車し、後続車に対する安全配慮義務を怠つた過失があり、被告藤商は、一般区域貨物自動車運送を業とする会社であり、中西車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、それぞれ本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

3  損害の填補

本件事故により原告に発生した損害に関し、原告は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から五二四〇万円の支払いを受け、同額の損害が補填されている。

二  争点

1  中西車の駐車と本件事故による損害との相当因果関係及び過失相殺

(被告中西、同藤商の主張)

本件事故は、原告の前方不注視及び安全運転義務違反(制限速度時速五〇キロメートルのところを、時速約八〇キロメートルの高速で進行)の過失、並びに被告小野の左方不注視の過失が競合して発生したものであり、右両名の過失が競合しなければ、本件事故現場に中西車が駐車していたしても、本件事故の発生には至らなかつたことが明らかであつて、被告中西車の駐車と本件事故の発生との間には、相当因果関係がない。

すなわち、被告小野が左方を十分に注視していれば、原告車が自車の後方から進行して来ていることに直ちに気付き、原告車の進路前方に進出して、その進路を妨害することはなく、また、小野車が原告車の進路を妨害しなければ、原告車は、進路を変更せずに中西車の横を通り抜けて、同車に衝突することはなかったものであるし、原告が前方注視を厳にし、安全運転に徹していれば、小野車が自車の進路前方に進出して来ることに即座に気付き、直ちに急制動の措置を講ずることによって、進路を変更しなくても小野車との衝突を避け得たものであり、両者の過失が競合しなければ、中西車が本件事故現場に駐車していたとしても、本件事故は起きなかったことが明らかである。

仮に、被告中西が中西車を本件事故現場に駐車させていたことにつき何らかの過失が存するとしても、原告の過失の方がはるかに大であるから、原告の損害賠償の額を定めるについては被告中西の過失を斟酌すべきではないし、仮に被告中西の過失を斟酌するとしても、大幅な過失相殺をすべきである。

2  被告西村、同小野の免責ないし無過失、過失相殺

(被告西村、同小野の主張)

本件事故は、原告の一方的過失により生じたものであり、被告小野は小野車の進行に関し注意を怠らなかつたし、同車に構造上の欠陥や機能障害はなく、本件事故との関係もない。したがつて、被告西村は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条但書により免責されるべきであり、また、同小野には、民法七〇九条の過失もない。

被告小野は、深夜スーパーフアミリアのゴミ袋を小野車に積み、スーパーの駐車場から国道一七〇号線に出る直前、一旦停止し、左方を見たところ、はるか遠方に原告車が来るのが見え、右側からの車両はなかつたので発進右折したが、中央線付近で原告車の存在を気にかけて停止し、事故回避を尽くした。しかるに、原告車は、逆に加速して時速八〇ないし九〇キロメートルの猛スピードで横を通り過ぎ、ブレーキをかけることなく、そのままトレーラーに衝突していつたのである。被告小野は、小野車をわずか九〇センチメートル反対車線に進出させて停止したに過ぎず、原告としては、通常の走行をしていたのであれば、同車を発見して速度を調整し、わずかに左転把するなどして容易に衝突を回避できたのであり、被告小野に過失はない。

3  その他損害額全般

第三争点に対する判断

一  免責、無過失及び過失相殺の主張について

前記争いのない事実に加え、後掲の各証拠を総合すると、次の事実が認められる。

1  事故態様

本件事故現場は、別紙図面のとおり、南北に通じる国道一七〇号線(以下「本件道路」という。)上にある。同現場は、道路両側に会社が立ち並び、東側は深夜でもスーパーフアミリアやガソリンスタンドが営業している。本件道路は、車道幅員は合計約一六メートルであり、北行車線は、車道の有効幅員が約三・九メートルであるが、その西側に幅約四メートルの安全地帯(ゼブラゾーン)が設置されており、同安全地帯の西側に、植込部分を含め、幅二・八メートルの歩道が設置されている。南行車線は、車道の幅員が八・一メートルであり、その東側に植込部分を含め、幅二・八メートルの歩道が設置されている(なお、本件道路は拡幅工事が計画されており、同工事完成後は片側二車線となることが予定されている。)。本件道路は、直線道路であり、路面はアスフアルトで舗装されている。本件事故現場付近は、街路灯が設置されており、道路東側にあるスーパーの店灯などにより、夜間でも約五〇センチメートル離れた距離から免許証の文字が読み取れる明るさであつた(丁第一号証の一三ないし一五)。

本件道路の速度は、時速五〇キロメートルに規制され、終日駐車禁止、追い越しのためのはみ出し禁止である。本件事故後間もなく実施された実況見分の際、本件道路の交通量は、五分間で、大型車が南行七台、北行一五台、普通車等が南行一二台、北行八台走行しており、事故現場の南側約五~一〇〇メートルの間の北行車線には、道路作業車その他の大型車が道路左側安全地帯に駐車していた(同各号証)。

被告中西は、被告藤商に長距離運転手として勤務し、平成元年二月二七日午後九時三〇分ころから、被告藤商が所有する中西車を北行車線の西側安全地帯に駐車させ、エンジンをかけ、車幅灯、尾灯などを点灯させたまま仮眠し、翌二八日午前二時二〇分ころ、目を覚まし、食事、積荷の状態を点検後、運転席で出発の準備をしていた(丁第一号証の四四、四五)。

被告小野は、被告西村の従業員として同被告の所有する小野車を運転し、ゴミの収集等をしていた。被告小野は、同日午前二時五五分ころ、本件道路東側にあるスーパーフアミリアにおいて生ゴミ等を回収後、本件道路をさらに北進し、ゴミ回収作業を続けるため、前照灯を下向きに点灯し、同店駐車場を出た。同被告は、同道路に進入する直前、南北を走行する車両の有無、安全を確認したところ、北行車線を北進する車両としては約九八・八メートル離れた地点を走行する原告車が視認できたのみであつた。そこで、同被告は、右距離からみて十分先に北行車線に右折進入できるものと考え、時速約一五ないし二〇キロメートルの速度でハンドルを右に切りながら本件道路に進入するとともに、右方を確認しながら進行したが、北行車線に進入する直前、前記原告車の動静が気になつたため、ブレーキを踏み、同車の車体を約九〇センチメートル北側車線にはみ出した状態で同車を停止させ、左サイドミラーで原告の動静を確認したところ、原告車は既に約一六・二メートルの距離まで接近して来ていた。

原告は、原告車を運転し、時速約八〇キロメートルの速度で本件道路を北進していたところ、自車進路前方に進出しようとする小野車を発見し、同車との衝突を回避しようと左方へハンドルを切つたところ、同車から約九・三メートル左斜め前方の北行車線左側安全地帯に駐車中の中西車(北行車線西端から同車東端までの距離は約三・一メートル)の後部に追突して大破し、原告は重傷を負つた(丁第一号証の一五、五〇)。

なお、本件衝突時、本件事故現場である北行車線における小野車と中西車の西端との原告車が走行し得る間隙は、約四メートルであつた(丁第一号証の一五)。

2  責任原因

右認定事実をもとに、被告小野の過失の有無について判断すると、同被告は、小野車を運転し、本件道路東側にある駐車場から同道路に進入し、北行車線に右折進入するに際し、同車線走行する車両の有無及びその動静を十分に確認し、その進路を妨害することのないようにして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、同車線を走行してきた原告車の動静、速度を十分に確認しないまま右折進行し、北行車線に自車の一部を約〇・九メートル進出させて停止させ、原告車の進路を妨害し、前記衝突事故を惹起させたものであるから、本件事故の発生に関し過失があるものと認められる。また、右小野車の北行車線への進出、原告車の進路の妨害がなければ、原告が小野車との衝突を回避しようして中西車に衝突することもなかつたのであるから、右過失と本件事故の発生との間には相当因果関係があるものと認められる。したがつて、被告小野は、本件事故により生じた損害に関し、民法七〇九条に基づく賠償責任があるものと認められる。

そして、被告西村が小野車の保有者であり、本件事故が同被告の業務中生じたことは当事者間に争いがないから、同被告は、本件事故により生じた損害に関し、自賠法三条に基づく賠償責任がある。

また、被告中西は、本件道路が終日駐車禁止であるにもかかわらず、大型トレーラーである中西車を本件道路左側に駐車させ、幅員約八メートルの道路を幅約三メートルにわたり遮断し、それにより小野車との衝突を回避しようとした原告車が中西車後部に追突したのであるから、違法に駐車したという過失があり、同過失と本件事故との間には相当因果関係があるものと認められる。

そして、前記認定のとおり、中西車は被告藤商が所有する車両であり、被告中西は、被告藤商の業務に従事中、前記駐車をし、同車内で仮眠していたのであるから、被告藤商は、中西車を自己の運行の用に供していたものであり、本件事故により生じた損害に関し、自賠法三条に基づく賠償責任があるものと認められる。

以上から、前記被告らの相当因果関係の不存在ないし免責の主張は採用しない。

3  過失相殺

原告は、本件道路の制限速度が時速五〇キロメートルに規制されているにもかかわらず、時速約八〇キロメートルの高速で進行し、進路前方の小野車と中西車との間には約四メートルの間隙があつたにもかかわらず、車幅灯、尾灯灯を点灯させて駐車していた中西車に追突したものであるから、前方不注視、速度違反、衝突回避措置の不適切等、本件事故の発生に関し、重大な過失があるものと認められる。

前記認定の被告小野の原告車の動静、速度の確認不十分、同中西の違法駐車の各過失と右原告の過失とを比較衡量すると、本件事故の発生に関する原告の過失割合は、被告小野(同西村)との関係では五割、同中西(同藤商)との関係では八割の過失があるものと認められるのが相当である。したがつて、後述する本件事故により生じた損害に関し、それぞれ同割合による過失相殺がなされるべきである。

二  治療経過・後遺障害の内容、程度等

原告は、平成元年二年二八日、本件事故後、三島救急センターに搬送され、頭部外傷Ⅳ型(無巣症状型)、右硬膜下血腫、左顔面打撲、右第一・二左第一肋骨骨折の診断を受け、対光反射は両側とも消失し、頭部CT検査により頭蓋内出血が認められたため、同日血腫除去等の手術を受け、さらに、同病院に入院を継続しつつ、同年四月一〇日、頭蓋形成術を施行され、同月二一日、骨弁除去を受け、同年一〇月一一日、頭蓋形成術を受けた(丁第二の一ないし三号証)。

原告は、平成元年一一月六日、関西労災病院に転院し、硬膜下血腫、脳挫傷の診断を受け、平成三年一二月二〇日まで同病院に入院した。原告は、平成四年四月一日、同病院のリハビリテーシヨン診療料の医師により、同日症状が固定し、後遺障害に関し、四肢深部反射亢進著明、病的反射亢進、左上肢廃用手、両下肢共同運動パターンレベルであり、日常生活動作は随時介護を要する状態であり、知能テストWAIS動作性、IQ施行不能、言語性IQは八七点であり、訓練効果がみられず、高度の神経系統の機能又は精神の障害のため随時介護を要する状態であるとの診断を受けた(丁第三号証の一)。

原告は、ほぼ四週間ごとに関西労災病院に通院し、診察、投薬、作業療法、理学療法を受け、健康状態と身体機能の維持を図つているが、着替え、車椅子からの乗降、食事の補助、排泄、入浴等の日常生活に常時介護が必要な状態にある(丁第三七号証、証人櫻井忠の証言)。

なお、原告は、その後、自賠責保険の認定において、自動車保険料率算定会(以下「自算会」という。)により、右後遺障害が自賠法施行令第二条別表後遺障害等級表の一級三号に該当するとの認定を受けている(丁第三三号証)。

したがつて、原告は、本件事故により労働能力を完全に喪失しており、この状態は終生続くものと推認される。

三  損害

1  入院治療費(請求額二二四三万一一三七円) 四五〇万二九六三円

原告は、本件事故による平成四年一月までの入院治療費として合計二二四三万一一三七円を要した旨主張する。しかし、丁第四号証によれば、原告負担額四五〇万二九六三円、健康保険負担額一七九二万〇三一七円を要したことが認められるところ、右のうち健康保険負担額は、健康保険法六七条一項により、保険者が損害賠償請求権を取得することになるから、原告の被告らに対する損害額から控除するのが相当である。また、原告は、右の他、保険外の室料として一八万一七七七円、表記外の自己負担額六〇六〇円の負担を負担したものと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。したがつて、本件事故と相当因果関係のある治療費として認め得るのは四五〇万二九六三円(丁第四号証)となる。

なお、被告西村、同小野は原告の症状は原告元年一一月六日に固定したとしその後の治療費は損害額として計上すべきではないと主張する。しかし、症状固定日が同日であることを認めるに足る的確な証拠はない上、症状固定後の治療費であつても現状の維持のため必要性、相当性が認められる範囲においてはこれを否定すべきではない。したがつて、右被告の主張は採用しない。

2  付添費(請求額四六七万九八三五円) 四六七万九八三五円

丁第五号証ないし第二六号証、第三七号証及び証人櫻井忠の証言によれば、原告は、前記入院時及び退院後、常時介護を要し、平成二年一月六日から平成四年九月三〇日までの間、職業付添人による介護を受け、少なくとも原告主張の四六七万九八三五円を要したことが認められる。

3  入院雑費(請求額一一四万八四〇〇円) 一一四万七三〇〇円

前記認定のとおり、原告は、本件事故後、平成三年一二月二〇日まで一〇二七日間入院し、平成四年一月六日から同月二一日までさらに手術のため一六日間入院しているところ、その間の入院雑費としては、少なくとも原告主張の一日当たり一一〇〇円を要したものと推認される。したがつて、入院雑費としては、右一一〇〇円に右入院期間である一〇四三日を乗じた一一四万七三〇〇円を要したものと認める。

なお、かかる入院期間が長期にわたる場合、実際に要した入院雑費は右算定にかかるものより逓減することが考えられるが、後記損害項目としては認定しなかつた父母の交通費のうち、相応のものは雑費として斟酌するのが相当であること及び一日当たり一一〇〇円との額が必ずしも高額ではないことなどを考慮し、右雑費の算定に関しいわゆる逓減方式は採用しないこととする。

4  父母の交通費(請求額一四二万四六一〇円) 〇円

原告は、入院中の原告の看護のため、原告の父母らが病院に赴くために要したバス、電車代等の交通費として一四二万四六一〇円を要した旨主張する。

しかし、病院入院中に看護婦及び前記認定の職業付添人以外に家族の付添看護を要したことを認めるに足る医師の証明等の客観的証拠がない上、付添の回数及びタクシー等の交通機関の料金について、具体的な認定をなし得るに足る客観的証拠がないから、右交通費を算定することはできないといわざるを得ない(もつとも、前記治療経過、身体障害の程度に照すと、額は定かではないにしろ、入院時の状況いかんにより、父母による看護のための通院交通費が全く不要であつたとまではいえないが、相応分は前記入院雑費の算定において逓減方式を採用しなかつたことにより斟酌済みである。)。

5  将来の通院治療費(請求額二四六万八三二一円) 六五万七一二九円

原告は、平成四年一〇月以降少なくとも一〇年間は月一回の割合で関西労災病院リハビリ科に通院して投薬、診察を受ける必要があり、そのため、少なくとも月額二万五八九〇円の治療費を要するので、それをホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して現価を求めると二四六万八三二一円を要することになると主張する。

しかし、右主張の根拠として挙げる丁第三六号証により、原告の平成四年二月以降の治療費の支払状況をみると、その七割は健康保険により支払われており、自己負担額は、三割であつて、同月以降同年七月までの自己負担額の平均額は約八〇〇〇円であるから、平成四年一〇月以降、原告は少なくとも治療費として一月当たり約八〇〇〇円を要するものと認めるのが相当である。そして、前記治療経過、後遺障害の程度に照すと、かかる治療は、平成四年一〇月以降一〇年間は必要であると推認されるから、ホフマン方式を採用して将来の治療費の本件事故当時における現価を算定すると、次の算式のとおり六五万七一二九円となる(一円未満切り捨て、以下同じ)。

8000×12×(10.4094-3.5643)=657129

6  将来の通院交通費(請求額一八一万八三一〇円) 一四七万八五四一円

原告は、平成四年一〇日以降月一回の割合でタクシーによる通院が必要であり、少なくとも月額一万九〇七二円を要するので、それをホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して現価を求めると一八一万八三〇一円を要することになると主張する。

前記後遺障害の内容、程度に照すと、原告は前記通院に関し、タクシーを利用することが必要であり、かつ、相当であると認められる。丁第二八号証の一ないし二八によれば、一回の通院に要したタクシー料金等の平均額は一万八〇〇〇円余であるので、今後、原告は少なくとも前記月一回の通院に要する交通費として少なくとも一万八〇〇〇円を要するものと認めるのが相当である。そして、前記認定のとおり、平成四年一〇月以降一〇年間は右支出を要するものと推認されるから、ホフマン方式を採用して将来の通院交通費の本件事故当時における現価を算定すると、次の算式のとおり一四七万八五四一円となる。

18000×12×(10.4094-3.5643)=1478541

7  将来の付添費(請求額八二四四万五八八〇円) 七四二七万六四〇〇円

原告は、日常生活全般にわたり常時付添人による介護を必要とし、毎月職業付添人に関する費用として交通費を含め二七万五〇〇〇円(年間三三〇万円)を必要とし、今後生存することが見込まれる五一年間にわたり同支出を要するから、ホフマン方式により中間利息を控除するとその額は八二四四万五八八〇円となると主張する。

前記認定した原告の後遺障害の内容、程度に照すと、原告は日常生活全般にわたり職業付添人による介護を必要とするものと認められるところ、丁第一四号証の一ないし同第二六号証の二によれば、原告は平成三年九月一日から平成四年九月三〇日までの間、職業付添人に対する費用として三四二万二五六七円を要したことが認められるから、平成四年一〇月以降、付添看護費として、生涯にわたり、少なくとも年当たり原告主張の三三〇万円を要するものと認めるのが相当である。

平均余命等を考慮すると、原告は平成四年一〇月以降五一年間は生存し得るものと推認されるから、ホフマン方式を採用して中間利息を控除し、将来の付添看護費を算定すると次の算式のとおり七四二七万六四〇〇円となる。

3300000×(26.0723-3.5643)=74276400

8  機能回復訓練費(請求額六九一万三〇五一円) 五八八万二八一七円

原告は、症状固定後も現状を維持するため理学療法士による機能回復訓練を受け、その費用として平成四年一〇月以降、月当たり一三万二〇〇〇円を要するから、ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して現価を求めると一八一万八三〇一円を要することになると主張する。

前記後遺障害の内容、程度に照らすと、原告は、平成四年一〇月以降少なくとも五年間にわたり理学療法士による療法を受ける必要があると認めるのが相当である。丁第二九号証によれば、原告は、平成四年一月から同年九月までの間、機能回復訓練費として、少なくとも原告主張の月当たり一三万二〇〇〇円を要したことが認められるから、ホフマン方式により中間利息を控除して同年一〇月から五年間の同費用を算定すると、次のとおり五八八万二八一七円となる。

132000×12×(7.2782-3.5643)=5882817

9  休業損害ないし逸失利益(請求額一億三六四五万九九一二円) 六六五二万四七六七円

原告は、昭和四二年一月八日生まれ、本件事故当時二二歳の大学生であり、平成三年三月、二四歳で大学を卒業する予定であつたところ、平成三年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・旧大新大卒・男子労働者によると二〇歳から二四歳までの平均賃金が三一一万三一〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実である。原告は、大学を卒業することが予定されていた二四歳から六七歳まで就労が可能であつたものと推認するのが相当であり、平成四年四月以降四三年間にわたり本件事故により労働能力を完全に喪失したものと認められるから、ホフマン方式を採用して中間利息を控除し、本件事故当時の休業損害ないし逸失利益の現価を算定すると、次の算式のとおり六六五二万四七六七円となる。

3113100×(23.2307-1.8614)=66524767円

10  住宅改造費及び備品代(請求額四五七万〇一一二円) 四二一万六七四二円

原告は、前記後遺障害のため終生車椅子で生活する外なく、従来の家屋は段差が多く、廊下も狭いため、車椅子による移動は困難で、風呂、トイレ、洗面所等を障害者向けに改造する必要があり、二階建てを新築し、仕様を変更し、かつ、入浴用マツト、椅子、訓練台、バルーン、砂袋を購入し、計四五七万〇一一二円を要した旨主張する。

丁第三〇号証によれば、右新築工事の際、標準外工事費として計三八九万八三一〇円を要したことが認められ、また、同号証及び前記原告の後遺障害の内容、程度に照らし、原告にとつて同工事が必要であることが認められる。

しかし、同費用のうち、玄関周りの居間・食堂の窓の電動シヤツター、便所のウオシユレツト装置の費用(計六七万五八九〇円)は、原告のみならず他の家族にとつても利便を与えるものであることなどを考慮すると、本件事故による費用として相当な範囲はその半額程度である三三万七九四五円と認め、その余である三二二万二四二〇円は、その内容及び工事費の額がさほど高額ではないことなどに照らし、全額を認めるのが相当である。

また、丁第三一号証の一ないし三によれば、原告は、自宅での訓練のため、訓練台として六一万八〇〇〇円、バルーン、砂袋として三万八三七七円を要したことが認められる。その他の備品等についてはこれを認めるに足る証拠はない。

したがつて、本件事故による住宅改造費、備品等の損害は、計四二一万六七四二円となる。

11  慰謝料(請求額二四〇〇万円) 二四〇〇万円

本件事故の態様、原告の受傷内容の治療経過、年齢及び家庭環境及び前記後遺障害の程度等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、二四〇〇万円が相当と認められる。

12  以上の損害を合計すると、一億八七三六万六四九四円となる。

四  過失相殺、損益相殺及び弁護士費用

前記認定のとおり、前記損害は、被告西村、同小野との関係ではその五割が、被告藤商、同中西との関係ではその八割が、過失相殺により減額されるべきである。したがつて、過失相殺後の残損害額は、被告西村、同小野に対して九三六八万八二四七円、被告藤商、同中西に対して三七四七万三二九八円となる。

本件事故により生じた損害に関し、五二四〇万円が支払われたことは当事者間に争いがない。したがつて、右過失相殺後の残損害額から五二四〇万円を控除すると、残額は、被告西村、同小野に対して四一二八万三二四七円となり、被告藤商、同中西に対しては残額が存しないこととなる。

被告西村、同小野に対する関係での弁護士費用としての損害額は、本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害は四〇〇万円が相当と認める。

前記被告西村、同小野に対する関係での損害合計四一二八万三二四七円に右四〇〇万円を加えると、損害合計は四五二八万三二四七円となる。

五  まとめ

以上の次第で、原告の被告西村、同小野に対する請求は、連帯して四五二八万三二四七円及びこれに対する本件事故後の日である平成四年一〇月三〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、両被告に対するその余の請求及び被告藤商、同中西に対する請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担(なお、原告に関し生じた費用は、事案に性質に照らし、各被告との関係で均等の割合で生じたものと推認する。)につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

別紙 〈省略〉

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